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| 最高に美味しいお握り | |
| 発行日時:2017年3月4日 | マガジンNo.08567 |
| そのお客さんは何回目かのお客さんでしたが、いつも笑顔を見せてくれることのない、ちょっと人を疑う 感じの恐い主婦でした。仕事の話をしたとき、自分は昔、警察官で、結婚して退職したあと、今は警察関係 のパートの仕事をしているとのことでした。 それを聞いて、僕はとても苦手意識があり、なるべく会話をしないように調律しました。 あるとき、僕は朝から何も食べずに夕方まで仕事をしていました。 例のごとく、そのお客さんはわりと冷たい感じでピアノの状況を話されました。 お客さん「ここの音が出にくいです❗」僕「はい…(グー)」お客さん「このペダルが調子悪いです❗」 「はい…(グー)」 お客さんは少しムッとして出ていかれました。僕は、ちょっと気付かれたかな、ヒンシュクを買ったかな… などと思いながら、とにかく、淡々と作業をしました。調律を終え、指摘された音やペダルを調整しました 。とても疲れてしまいました。 やがて、お客さんはピアノの部屋に入ってきました。そして突然、「これ、どうぞ!」と言って、1枚の お皿を持ってきました。そのお皿には大きなお握りが3つ載っていました。お新香まで添えられていました 。僕は、「あ…どうも…」と立ち尽くしていました。お客さんは部屋を出ていかれました。 僕はそのお握りを食べてみました。メチャメチャ美味しかったです。中身はシャケと梅とオカカでした。 僕は食べながら泣けてきました。このお客さん、冷たくて恐い人だと思っていたけど、実はすごく優しい人 だったんだ。僕のためにご飯を炊いて(もしかしたら夕飯ようのご飯だったのかも)握ってくれた、 シャケを焼いて、海苔を巻いてお新香まで付けて持ってきてくれた。 僕はその時に、人を外面で判断したらいけないなと思いました。同時に自分の短絡的なものの見方を 恥じました。そして朝から何も食べずに夕方まで仕事をして心身ともに疲れきったときに、そのお握りが、 僕を救ってくれたのです。 調律の仕事をしてて嬉しいのは、調律したピアノを褒めてもらえることもそうですが、 人間としての優しさを示されるときです。 僕もそんな人間としての優しさを示せる調律師になりたいと思いました。 |
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